＜はじめに＞

約七十五年の周期で地球近辺へと回帰し、数多の文献にも記録されてきたハレー彗星の
　最接近に向けて、世相の熱狂ぶりも急速に高まりつつある今日。
だが、それにも増して大きな話題を呼んでいる出来事が有る。

先月、我が国最大の禁足地に指定されている幻想郷で、大変貴重な資料が発見された。
　かなり年季が入った音楽CDで、八組の楽曲が収録されており、
それに物語ブックレットが付随している形態だ。
琉球神道をモチーフとした民俗ファンタジーもので、
我々が暮らす現実世界および海の彼方の他界概念であるニライカナイを舞台としている。
その作品名を『衰盛橘果譚　～ Citrus Resuscitation.』という。


＜いつ創作されたものか＞

正確な創作時期は不明だが、恐らく今から一〇〇年以上も昔。物質的には最も豊かだが
　精神的には最も貧しいと呼称された、二十一世紀初頭のものと推測される。だとすれば、
　かの【神亀元年大神災】や、翌年の首都移転……所謂【神亀の遷都】より更に前の時代。
　日本の歴史上、最も幻想が失われていた悲惨な時期に生まれ落ちた作品らしいのだ。


＜いつどうやって入手したか＞

幻想郷の一角にある”旧無縁塚”は、博麗大結界が緩和された後も我々の暮らす世界に
　比率が偏っており、未だに「外来人」や「外の世界のの道具」が多く流れ着くという。
　そうした人や物は稗田家の十代目当主である稗田阿斗氏が管轄する事が定められており、
　この度、ご本人からの依頼を受けて本ページにて公開させて頂く運びとなったのである。


＜稗田阿斗氏の紹介＞

当學會員でもある稗田氏は結界省特別参与を務めておられ、消滅の危機に曝されている
古い祭儀や伝承などを調査・保存してゆくため、政府に対して様々な提言を行っている。
最近は我が国のみならずユーラシア大陸全域の民俗文化の復興事業にも
精力的に取り組んでおられ、今後のご活躍がますます期待されている。


＜終わりに＞

本ページでの『衰盛橘果譚』全曲＆全文の無料公開は、これを広く世に表す事によって
　公共の利益に付すべしという稗田氏たっての強いご希望が有り、実現したものである。
　本人からは「多くの人々に楽しんで貰い、後世へ伝え遺す事が出来れば望外の喜び」と
　言伝を頂き、併せて雑考文まで寄稿して頂いた。この場を借りて深く御礼申し上げたい。


正道復古暦六七年（西暦二一三四年）